平成23年3月に発生した東日本大震災では、基地局やWiFi (Wireless Fidelity)アクセスポイントが十分に稼動しているにもかかわらず、インターネットへのゲートウェイや情報処理をするサーバが故障していたため、情報通信サービスを提供することができませんでした。この問題を解決するため、MDRU(Movable and Deployable Resource Unit)の一種である移動式車載局「ICTカー」に注目が集まっています。
ICTカーの機能を最大限利用するには、その時々における最適なWMNの構成を知ることが必要です。しかし地理的・時間的に通信環境が刻々と変化する被災地において、それは容易なことではありません。
そこで当研究室では、通信環境の動的な変化に応じて最適なネットワーク構成を自動的に求める制御アルゴリズムの研究を行っています。通信トラヒックを効率的に収容するために、アクセスポイントやユーザの分布に応じてトポロジや無線チャネル割当の適応的な制御を行います。このアルゴリズムによりMDRUが自律的にWMNの構成を制御し、状況に応じた効率的かつ安定した通信の実現を目指しています。
さらに、当研究室ではNTTと協力して本研究のアルゴリズムを実装した装置とソフトウェアを作成して検証実験を行いました。この実験の検証結果を基に、当研究室では今後も通信制御アルゴリズムの研究を行っていきます。
2013年10月12日から13日に会津大学でICTユニットを用いた通信実験が行われました。当研究室では実際に発生する通話のトラヒックの計測実験を行いました。ここで得られたトラヒックパターンを基に、当研究室で開発しているネットワーク構築アルゴリズムの高度化を図っていきます。
2014年2月に東北大学青葉山キャンパスにおいて、ICTカーを設置してWMNを構築する通信実験を行いました。本実験では青葉山キャンパスを大規模災害によって通信ネットワーク機能が完全に失われた地域と見立て実験しました。1台のICTカーと3台の基地局によってWMNを構成し、図の白枠内で示されるエリアにサービスを提供できることを確認しました。
NTTではMDRUによる移動式ICTカーのコンセプトが提案され、社会実装に向けた実験が行われています。NTTによる実際の災害現場での利用実験として、2013年11月の台風直撃で甚大な被害を受けたフィリピンのSan Remigio市においてICTカーの設置が行われました。台風直後は市の通信システムが壊滅して人力で情報を収集せざるを得ず、市から国などへの連絡は市長の衛星携帯電話一台だけで行われました。災害発生後の被災地へICTカーをいち早く搬送し、ICTカーが周辺エリアの無線LANアクセスポイントを制御することで、被災地の人々に通信を提供することが可能となりました。